外国人雇用において活用できる助成金制度について解説
外国人雇用を行うことのメリット
①人手不足感の解消
少子化によって日本の若い労働力の価値は年々高まっています。新卒採用は売り手市場になっており、また、若者は東京など都市部に流れやすいため、広島のような地方都市で優秀な若い人材を獲得するのは大変難しくなってきています。海外の人材を雇用することで、この人手不足を解消し、優秀な若者を雇用できる可能性が拡がります。
②外国語等のグローバルなスキルを活かした業務
海外企業と取引のある会社の通訳業務や会社の海外進出への基盤作りなど、外国語が堪能な外国人を雇用することで業務を円滑に進めることができます。特定技能の制度を活用して外国人材を雇用すれば、宿泊業のフロント、ベルサービス、外食業のレストランサービスなど、外国人のお客様をターゲットにしている企業での外国語サービスを向上させることができます。
③助成金の活用
外国人労働者を雇用することで、厚生労働省の助成金の支給対象となることがあります。外国人特有の事情に配慮した雇用環境の整備等、これから外国人雇用を本格的に進めていく企業にはメリットが大きいものになりますので、ぜひ活用したいところです。
外国人雇用に関連して活用できる助成金
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
概要
外国人労働者は、日本の労働法制や雇用慣行などに関する知識の不足や言語の違いなどから、労働条件・解雇などに関するトラブルが生じやすい傾向にあります。この助成金は、外国人特有の事情に配慮した就労環境の整備を行い、外国人労働者の職場定着に取り組む事業主に対して、その経費の一部を助成するものです。
申請に必要となる主な要件
- (1)外国人労働者を雇用している事業主であること
- (2)認定を受けた就労環境整備計画に基づき、外国人労働者に対する就労環境整備措置(1及び2の措置に加え、3~5のいずれかを選択)を新たに導入し、外国人労働者に対して実施すること
-
- 雇用労務責任者の選任
- 就業規則等の社内規程の多言語化
- 苦情・相談体制の整備
- 一時帰国のための休暇制度の整備
- 社内マニュアル・標識類等の多言語化
-
- (3)就労環境整備計画期間終了後の一定期間経過後における外国人労働者の離職率が10%以下であること。ただし、計画期間末日の翌日における外国人労働者数が2人以上10人以下の場合は、算定期間における雇用保険一般被保険者である外国人離職者数が、1人以下であること
※他にも雇用関係助成金共通の要件などいくつかの受給要件があります
賃金要件
就労環境整備措置の対象となる外国人労働者の毎月決まって支払われる賃金について、最も遅い就労環境整備措置実施日の翌日から起算して1年以内に5%以上増加している場合、助成額が加算されます。
支給額
助成金の支給対象経費は、就労環境整備計画期間の初日から就労環境整備計画期間の末日までの間に、事業主から外部機関等に対して支払いが完了した以下の①~⑤の経費です。
①通訳費(外部機関に委託するものに限る)
②翻訳機器導入費(事業主が購入した雇用労務責任者と外国人労働者の面談に必要な翻訳機器の導入に限り、10万円を上限とする)
③翻訳料(外部機関に委託する者に限る)
④弁護士、社会保険労務士等への委託料(外国人労働者の就労環境整備措置に要する委託料に限り、顧問料等は含まない)
⑤社内標識類の設置・改修費
・賃金要件を満たしていない場合・・・支給対象経費の2分の1(上限57万円)
・賃金要件を満たしている場合・・・・支給対象経費の3分の2(上限72万円)
手続きの流れ
「就労環境整備計画」を策定し、本社所在地を管轄する都道府県労働局に提出
↓
計画期間内に、就労環境整備措置を新たに導入
↓
計画期間内に、就労環境整備措置を実施
↓
算定期間(計画終了後12ヶ月)終了後2ヶ月以内に都道府県労働局に申請
↓
助成金振込
注意点
・在留資格に関わらず、雇用保険の被保険者となる外国人労働者を雇用している事業主が対象
・計画策定から申請までにかなり時間が空くのでスケジュール管理が大切
人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
概要
人材開発支援助成金は、労働者の職業生活設計の全期間を通じて段階 的かつ体系的な職業能力開発を効果的に促進するため、事業主等が雇用する労働者に対して職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や 訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。
対象事業主
雇用保険適用事業主。人材開発支援助成金では、従業員の計画的な職業能力開発に取り組む事業主等を支援するため、「職業能力開発推進者」の選任と「事業内職業能力開発計画」の策定・周知をしている事業主を対象(有期実習型訓練を除く。)としています
雇用する労働者に対して定期的なキャリアコンサルティングを実施することについて、労働協約、就業規則又は事業内職業能力開発計画で定めていることなど、他にも要件はあります。
人材育成支援コースの訓練の種類
人材育成支援コースの対象となる訓練には以下の3種類あります。
①人材育成訓練(OFF-JT)
②認定実習併用職業訓練(OJT+OFF-JT)
③有期実習型訓練(OJT+OFF-JT)
①人材育成訓練
職務に関連した知識・技能を習得させるための10時間以上の訓練。事業活動と切り離して座学などにより行う訓練(OFF-JTの訓練)で、事業内訓練または事業外訓練で計画する必要があります。
②認定実習併用職業訓練
厚生労働大臣の認定を受けた実習併用職業訓練。実習併用職業訓練(OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練)で、その訓練が、厚生労働大臣の認定を事前に受けている必要があります。
訓練実施期間、時間数、総訓練時間数に占めるOJTの割合等の要件があります。
対象労働者は、次の①から③までのいずれかに該当する15歳以上45歳未満の労働者であって、 申請事業主に雇用される被保険者
①新たに雇い入れた者
②大臣認定の申請前にすでに雇用されている短時間労働者であって、引き続き、同一の事業主において、通常の労働者に転換した者
③既に雇用する被保険者
③有期実習型訓練
正社員訓練が少ない有期契約労働者等に対し、正規雇用 労働者等に転換するための訓練。
総訓練期間は2ヶ月以上、訓練時間、訓練時間に占めるOJTの割合などの要件があり、ジョブ・カードの作成が必要です。
助成額・助成率・支給限度額
支援対象となる訓練 | 経費助成 | 賃金助成(1人1時間当たり) | OJT実施助成(1人1時間当たり) | ||||
賃金要件又は資格等手当要件を満たす場合 | 賃金要件又は資格等手当要件を満たす場合 | 賃金要件又は資格等手当要件を満たす場合 | |||||
人材育成訓練 | 雇用保険被保険者(有期契約労働者等を除く。)の場合 | 45%
(30%) |
+15%
(+15%) |
760円
(380円) |
+200円
(+100円) |
ー | ー |
有期雇用契約労働者等の場合 | 60% | +15% | ー | ー | |||
有期雇用契約労働者等を正規雇用労働者等にへ転換した場合 | 70% | +30% | ー | ー | |||
認定実習併用職業訓練 | 45%
(30%) |
+15%
(+15%) |
20万円
(11万円) |
+5万円
(+3万円) |
|||
有期実習型訓練 | 有期契約労働者等の場合 | 60% | +15% | 10万円
(9万円) |
+3万円
(+3万円) |
||
有期契約労働者等を正規雇用労働者等へ転換等した場合 | 70% | +30% |
※支給限度額があります。
経費助成限度額(一人当たり)
支援対象となる訓練 | 企業規模 | 10時間以上
100時間未満 |
100時間以上
200時間未満 |
200時間以上 |
人材育成訓練コース | ・中小企業事業主
・事業主団体等 |
15万円 | 30万円 | 50万円 |
・中小企業以外の事業主 | 10万円 | 20万円 | 30万円 |
賃金助成額(一人人訓練当たり)
1200時間が限度時間。
支給に関する制限
訓練受講回数は、①労働者につき、1年度で3回まで
1事業所・1事業主団体の支給額は、1年度に1000万円まで
手続きの流れ
職業能力開発推進者の選任
↓
事業内職業能力開発計画の作成
↓
・認定実習併用職業訓練の場合は、厚生労働大臣の認定
・有期実習型訓練の場合は、キャリアコンサルティングの実施
⇒
訓練計画の作成・届出(労働局)
↓
訓練等の実施等
↓
支給申請(訓練終了日の翌日から起算して2ヶ月以内)
↓
助成金の支給決定または不支給決定
キャリアアップ助成金
概要
有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者(以下、「有期雇用労働者等」という。)の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成するものです。
正社員化支援 | 正社員化コース | 有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換又は直接雇用 |
障害者正社員化コース | 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換 詳細はこちら |
|
処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース | 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を改定し3%以上増額 |
賃金規定等共通化コース | 有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用 | |
賞与・退職金制度導入コース | 有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し支給又は積立てを実施 | |
(選択的適用拡大導入時処遇改善コース) | 選択的適用拡大の導入に伴い、短時間労働者の意向を大切に把握し、被用者保険の適用と働き方の見直しに反映させるための取組の実施(令和4年9月末をもってコース廃止) | |
短時間労働者労働時間延長コース | 有期雇用労働者等の週所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険を適用 |
(厚労省HPより引用)
手続きの流れ(正社員化コース)
「キャリアアップ計画」を策定し、本社所在地を管轄する都道府県労働局に提出
↓
就業規則の改定
↓
就業規則等に基づいて、正社員に転換
↓
転換後6か月間の賃金の支払い(転換前6ヶ月と比較して3%以上上昇)
↓
転換後6ヶ月経過後2ヶ月以内に都道府県労働局に申請
↓
助成金振込
注意点
・キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、技能実習生、特定技能1号の外国人は対象とならない。(制度の主旨と、正社員として長く働いてもらうという助成金の主旨が異なるため)
・キャリアアップ助成金(処遇改善コース)は、技能実習生、特定技能1号の外国人も対象となる。
助成金申請を行ううえで企業が整備すべきこととは?
ポイント① 就業規則の整備
助成金の申請をする際は、就業規則が正しく作成・届出られていることも要件となり得ます。従業員が10名以上の事業場では、就業規則を作成して監督署に届け出ること、その事業場の従業員に周知することが義務付けられています。特に外国人を雇用している場合は、外国人にも内容を周知できるよう、母国語か、やさしい日本語での就業規則の作成が必要です。
ポイント② 助成金受給の要件となる「計画届」
上記で述べた、人材確保等支援助成金、人材開発支援助成金、キャリアアップ助成金いずれも、まずは、各々「就労環境整備計画」、「キャリアップ計画」の労働局への届け出が必要です。これらの計画にのっとって進めていきますので、計画時点で、実現可能な企業の将来像にあった計画をしておくことが必要です。
外国人雇用による助成金申請を検討する場合には
当事務所にご相談ください
外国人に関する助成金申請は、外国人雇用と密接に結びついています。外国人を雇用したら、助成金を活用して雇用環境を整備し、その外国人に長く働き力を発揮してもらいたいとお考えのことと思います。広島で外国人雇用をお考えの企業様はぜひ江口労働法務事務所にご相談ください。