同一労働・同一賃金制度とは
■同一労働同一賃金とは
日本の「同一労働同一賃金」は、「正社員」と「非正規社員」の格差の是正を図ろうとするものです。日本ならではの「職務に関係のない手当」や「年功序列型賃金」などを否定しているわけではなく、あくまで「正社員」と「非正規社員」の待遇の差が「不合理ではない」ものとなることを目指しています。
この「同一労働同一賃金」は、パートタイム・有期雇用労働法に根拠があり、下記の均等・均衡待遇を実現することを目標としています。そのため、正社員間の格差や非正社員間の格差は法の対象ではありません。
<均等待遇とは>(パートタイム・有期雇用労働法第9条)
正社員と非正規社員の、
① 職務内容(=業務内容・業務に伴う責任の程度)と、
② 当該職務の内容及び配置の変更の範囲(=人材活用の仕組み、異動の有無)
が同一である場合には、非正規社員の待遇について、正社員と比較して差別的取扱いしてはならないとすることです。
<均衡待遇とは>(パートタイム・有期雇用労働法第8条)
上記の均等待遇に該当しない場合には待遇に差を設けることは可能だが、
① 職務内容(=業務内容・業務に伴う責任の程度)と、
② 当該職務の内容及び配置の変更の範囲(=人材活用の仕組み、異動の有無)
③ その他の事情(=定年後再雇用、兼業・副業、正社員登用等)
を考慮して、不合理でないものにしなければならないとすること。
<労働者に対する説明義務>(パートタイム・有期雇用労働法第14条第1項)
パートタイム・有期雇用労働法の施行により、下記の内容が事業主の義務となりました。
・非正規社員に対して雇用管理上の措置の内容及び待遇決定に際しての考慮事項を説明すること
・非正規社員の求めがあれば、正社員との間の待遇差の内容・理由等を説明すること。
事業主には、これらの内容がしっかりと説明できるよう、正社員と非正規社員の「待遇差」について整理しておくことが求められます。
■同一労働同一賃金に関する最高裁判決
(1)ハマキョウレックス事件(平成30年6月1日)
①正社員のトラック運転手と契約社員(有期契約、時給1150円、賞与・昇給なし)のトラック運転手の待遇について、業務内容は同一でも人材活用の範囲が異なる(契約社員には異動がない)ことから、基本給や賞与については、違法ではない。
②無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当を契約社員に不支給とするのは有期契約を理由とする不合理な労働条件に当り、違法。
(2)長澤運輸事件(平成30年6月1日)
正社員のトラック運転手と定年後再雇用の嘱託のトラック運転手(1年の契約、65歳まで更新)の待遇について、
①再雇用の嘱託社員の基本給が減額(約10%)され、賞与が不支給となるのは、定年制度や厚生年金の受給が可能となるなど「その他の事情」を考慮して不合理ではない。
②精勤手当(5千円)が不支給となることは不合理である。
(3)大阪医科薬科大学事件(令和2年10月13日)
正職員 | アルバイト | |
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人数 | 約200名 | 約150名 |
業務内容 | 定型的で簡便な作業ではない責任を伴う業務が主 | 定型的で簡便な作業が中心 |
異動の有無 | 出向、異動がある | 原則、異動はない |
基本給 | 月給(初任給192,570円) | 時給(950円) |
賞与 | 年2回 | なし |
期間の定め | なし | あり(1年) |
①正職員に支給されていた賞与は、被告の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含む。
②正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、賞与は、
正職員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図るのが目的
③アルバイトの業務は、相当に軽易であるのに対し、正職員の職務の内容には一定の相違があった。
④アルバイトについては、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験に
よる登用制度が設けられていた。
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正職員に通年で約4.6ヵ月の賞与が支給されていること。契約職員に正職員の80%に
相当する賞与が支給されていること。アルバイトへの年間支給額が、正職員の年間支給額
の55%であることを考慮しても、「不合理と認められるものに当たらない」
(4)メトロコマース事件(令和2年10月13日)
正社員に本給の2ヶ月分+176000円の賞与を2回支給し、契約社員B(有期契約、時給制、原則更新、定年65歳)は、夏季と冬季に各12万円の賞与を支給されており、退職金については、正社員には支給されるが、契約社員には支給されていない事案。
①「正社員に対する賞与は、主として労務の対価としての後払いの性格や人事政策上の目的を踏まえた意欲向上等の性格を帯びているが、時給制の契約社員に対する賞与が労務の対価の後払いを予定すべきであると言うことはできないこと等の事情から、契約社員Bに対する賞与が相当低額に抑えられていることは否定できないものの、その相違が直ちに不合理であるとはいえない」とする東京高裁の判断が確定。
②退職金は、正社員としての職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い
や継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、会社は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署で
継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものである。
③他方、契約社員の職務の内容は、正社員の職務と異なるものといえ、正社員に支給される退職金が支給されないことも不合理な労働条件の相違ではない。
(5)日本郵便事件(令和2年10月15日)
①正社員と契約社員(有期、時給制、65歳更新上限)の賞与の支給格差について、正社員と契約社員の職務の内容、職務内容・配置の変更範囲に相違があることから相違があることに一定の合理性がある。
賞与には、対象期間における労働の対価としての性格だけでなく、功労報償や将来の労働への意欲向上としての意味合いも有することから、正社員に対する賞与を手厚くすることは優秀な人材の確保を図るための施策として一定の合理性がある。
②他方、時給制契約社員が無期契約の正社員との間で夏季休暇及び冬季休暇の付与、年末年始勤務手当、病気休暇、年始期間の勤務に対する割増賃金の不支給、扶養手当について、労働条件の相違が不合理であると判断。
(まとめ)
①基本給、賞与、退職金については、全ての判例で、正社員とパート・有期契約社員の
相違は、「不合理ではない」と判断している。
②その他の各種手当については、個別に正社員とパート・有期契約社員の職務の内容、
配置の変更の範囲等を精査して判断しており、不合理と判断されるものもある。
■当事務所でサポートできること
1.賃金制度が同一労働同一賃金に違反していないか点検サポート
最高裁の判決や、行政から出されたガイドラインを踏まえた同一労働同一賃金関連法に対応するための労働条件の点検を行います。正社員、非正規社員の職務分析、職務評価を行い、職務内容による待遇差を明確にします。各待遇(給与、賞与、退職金、各種手当)について、その待遇の差が不合理ではないのか検証し、現状で問題がある場合は改善案をご提案します。(詳細はこちらをクリック)
2.「職務給」を用いたジョブ型賃金制度の構築サポート
同一労働同一賃金の実現のためには、「職務内容、職務内容及び配置の変更の範囲、その他の事情」を勘案して待遇を決定する必要があります。しかし、そもそも「職務」を基準とした人事賃金制度(職務給)にしておけば、正社員、非正規社員の区別なく「職務」に応じた待遇となるので、簡単に「同一労働同一賃金」を実現することができます。会社はガイドラインの解釈や今後の裁判例に迷うこともなくなりますし、社員の自分の給与や待遇に対する納得性を高める効果もあります。
そのためにはまず、職務によって等級が決まる職務等級制度を構築し、報酬の仕組み(賃金制度)として「職務給」を導入します。さらに社員の行動や成果を評価する評価制度を策定し、「職務給」を用いた総合的な人事制度を構築していきます。
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