お電話でのお問い合わせ
0822244514
受付時間
平日 9:00~17:30
(土曜日は応相談)

過去の裁判例からみる障害者雇用の注意点

障害者雇用促進の必要性

少子高齢化による労働人口の減少への対策としては、①女性 ②高齢者 ③障害者 ④外国人の雇用を促進することが国の方針として掲げられており、それぞれ、法律が整備されています。

障害者については、「障害者雇用促進法」が順次改正され、企業の障害者雇用義務の強化が図られており、法定障害者雇用率を達していない企業には、「障害者雇用納付金」(1人当り月5万円)が課せられています。

しかしながら、何の準備もせずに障害者雇用をスタートしてしまうと、トラブルになってしまうケースもあります。企業は、障害者に配慮し、障害者が十分に能力を発揮できる職場環境を整えておく必要があります。企業が障害者雇用において注意するべきポイントについて、以下の裁判例が参考になります。

 

障害者雇用に関する過去の裁判例

(1)日本曹達事件(東京地裁平成18・4・25労働判例924号112頁)

事案の概要

同社の障害者枠制度は、合理的な理由もなく、障害者であることのみを理由に障害者を差別的に取り扱う制度であると主張した事案

判決

障害者枠制度は、障害者の業務への適性や業務遂行能力を見極めるため必要な期間を設け、会社と障害者が雇用契約を締結しやすい状況を作り、会社の障害者雇用の拡大を図ることを目的とした制度で、厚生労働省が推進するトライアル雇用制度と類似するもので、6か月の嘱託契約期間中に、当人の抱える障害が業務遂行上、決定的な支障になると判断されない限り、そのまま正社員に移行することが制度的に予定され、実際にもそのような運用がされているのであるから、会社の障害者雇用の維持・拡大に資するものといえる。

嘱託契約社員と正社員では給与体系が異なるため、障害者枠制度で採用された障害者は年度をまたいで嘱託契約期間が継続した場合、その期間について、同年度の正社員と比べて低い給与が支給されることになるが、このような差異は、障害者枠制度で採用された嘱託契約社員のみならず、それ以外の嘱託契約社員にも共通して適用される給与体系に基づいて生じたものにすぎず、障害者であることのみを理由に障害者を差別的に取り扱うものではない。

裁判例のポイントと企業が把握するべき注意点

この裁判例の場合は、「障害者枠制度」が、障害者雇用の維持・拡大を目的としたものでありトライアル雇用制度と類似する内容であったこと、また、障害者の給与は正社員よりも低いが、同じ嘱託社員と比べると共通の給与体系に基づいたものであることから、「障害者枠制度」は、障害者差別には当たらないと判断されました。

企業は、「障害者枠制度」を設ける場合に、その目的、給与体系が障害者差別に当たらないのか、注意して検討する必要があります。

 

(2)藍澤證券事件(東京高裁平成22・5・27労働判例1011号20頁)

障害者雇用促進法上の労使の努力義務と精神障害者の雇止めの事案

事案の概要

Xは、うつ病を発症し、平成16年2月に障害等級3級と認定された。その後、Xは人材派遣会社に所属しE銀行の嘱託社員として勤務していた(月額35万円)。他方、Y社は退職した障害者の後任として一般事務要員を募集した(月額27万4千円。正社員)。実際には、Xは、Y社と有期雇用契約(平成18年5月21日~同年10月31日、平成18年11月1日~平成19年3月31日)を締結した。Xの勤務成績が不良により、平成19年3月31日をもって雇止めされたことに対し、Xは、障害者雇用促進法5条「使用者は適正な雇用管理を行うことにより障害者の雇用の安定に努めなければならない」より、本件雇止めは不合理であると主張した。

判決

事業者の協力(障害者雇用促進法5条)と障害を有する労働者の就労上の努力(同法4条)が相まって、障害者雇用に関し社会連帯の理念が実現されることを期待しているのであるから、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援および指導を行った場合は、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負い、同法は、事業者の協力と障害を有する労働者の就労上の努力が相まって、障害者雇用に関し社会連帯の理念が実現されることを期待しているものである。

裁判例のポイントと企業が把握するべき注意点

この裁判例では、障害者である従業員Xは、勤務成績不良のため雇い止めされています。判決では、使用者の義務だけではなく、労働者の義務(障害者雇用促進法第4条)にも触れ、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援および指導を行った場合は、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負うと述べています。

 

(3)ヤマトロジスティック事件(東京地裁平成20・9・30労働判例977号59頁)

知的障害を伴う自閉症を有していた労働者の自殺について使用者の安全配慮義務違反がないとされた

事案の概要

Kは、平成14年11月にヤマト運輸株(株)に入社し、同社の組織変更に伴い、平成15年4月よりヤマトロジスティック社に雇用されることになり、時給850円とするパート社員雇用契約を締結した。同社では、商品のひも掛け作業に従事した。Kは、ヤマト運輸の入社時に自閉症であることを告知していなかったが、センター長や作業リーダー、同僚らはKの作業態度から、すぐに知的障害があることを理解し、Kに簡単な作業を割り当て、Kが孤立しないように一緒に食事をするなどの配慮をしていた。

Kの所属するロジセンターの赤字のため、Kの時給が850円から840円に引き下げとなり(月17000円減少)、Kの抱える住宅ローン(月14000円)に影響が出ることを苦にして平成17年3月に自室で自殺した。

判決

①知的障害を伴う自閉症を有していたKの自殺による死亡につき、その結果発生についての安全配慮義務違反および注意義務違反が認められるためには、前提として、Kの自殺という結果が発生したことについての予見可能性が必要である。その予見可能性の対象としては、自殺することないしうつ病にり患していることの認識まで要するものではなく、自殺の原因ないしうつ病を発生する原因となる危険な状態の発生の認識があれば足りる。

②雇用時間の短縮等の雇用形態の変化が、自閉症を有する被用者にとって一定の負担となりうるものであるとしても、それが一定の負担となることを超えて、それに起因して被用者がその精神状態を著しく害して自殺することまで、通常生ずべき結果であると解することはできず、むしろ特異な結果というべきである。

③本件においては、Kの自殺についてY社が具体的に予見可能であったとはいえない。

裁判例のポイントと企業が把握するべき注意点

この裁判例では、知的障害を伴う自閉症を有していた労働者の自殺について、使用者は予見することができず、そのため使用者の「安全配慮義務違反」はないとされました。このケースは、雇用形態の変化に起因して労働者が自殺するという特異なケースでした。

企業には、「安全配慮義務」があるため、障害者の雇用において、「危険な状態の発生」がないかどうか注意しておく必要があります。

 

(4)第一興商(本訴)事件(東京地裁平成24・12・25労働判例1068号5ページ)

事案の概要

視覚障害(右0.1 左0.08)(いずれも矯正不能)を有する従業員の休職期間満了による自動退職が認められなかった事案

判決

被告は、従業員1580名、売上高828億円、純利益69億円の大企業であり、たかだか月額26万円程度の給与水準の事務職が被告の内部に存在しないとは考えにくい。パワーポイント等のソフトを用いて企画書を作成できていたこと等を考慮すると、休職期間満了時点においても事務職としての通常の業務を遂行することが可能であったと推認することが相当であって、休職事由の消滅が認められ、自動退職は効力を生じていない。

裁判例のポイントと企業が把握するべき注意点

この裁判例では、従業員が休職期間満了時に、従前の業務には復職できないが事務職であれば復職できるということで、休職期間満了による自動退職が認められませんでした。大企業で事務職への異動が容易であったことがポイントとなります。

雇い入れ後に障害を有することになった従業員について、その従業員が「職種限定」であれば、労働契約上の労務の提供ができなければ休職後の自動退職は可能ですが、その従業員が、「職種限定ではない」場合は、休職期間満了時の回復具合によっては、職種の変更や部署異動、軽減業務などを検討する必要がある場合があります。

 

(5)カール・ハンセン&サンジャパン事件(東京地裁平成25・10・4労働判例1085号50頁)

事案の概要

ギランバレー症候群にり患した従業員の就業規則の「業務に耐えられない」ことを理由の解雇が有効とされた事案

判決
  • 独歩困難
  • 補助具を使用すれば100m程度の歩行は可能
  • PCのキーボード操作は可能
  • 筆圧が弱いので書字は困難
  • 週刊誌程度の重さをつまむのは困難
  • 他人の運転による車での通勤は可能だが、公共交通機関による通勤は不明

制限勤務であれば、就労可能との診断がされている。

裁判例のポイントと企業が把握するべき注意点

「業務に耐えられない」かどうかは、事案により個別に判断することになります。

 

(6)阪神バス(勤務配慮)事件(神戸地裁尼崎支部決定、平成24・4・9労働判例1054号38頁)

事案の概要

阪神バス会社の従業員であり身体障害を有するXが、勤務シフトにおいて従前受けていた配慮(午後の比較的遅い時間帯からの乗務を担当する)がされないこととなったことから、Y社に対し、仮に、従前受けていた配慮がなされた内容以外で勤務する義務のない地位にあることの確認を求めた事案。

判決

障害者に対し、必要な勤務配慮を行わないことは、法の下の平等(憲法14条)の趣旨に反するものとして公序良俗ないし信義則に反する場合がありえる。

勤務配慮を行わないことが公序良俗または信義則に反するか否かについては、①勤務配慮を行う必要性および相当性と、②これを行うことによるY社に対する負担の程度とを総合的に考慮して判断をする。

Xに対する勤務配慮は、その必要性および相当性が認められ、とりわけ必要性については相当強い程度で認められる反面、配慮を行うことによるY社への負担は過度のものとまでは認められないことから、これらの事情を総合的に考慮すれば、Xに対する勤務配慮を行わないことが公序良俗ないし信義則に反するとのXの主張が一応認められる。

裁判例のポイントと企業が把握するべき注意点

勤務配慮を行わないことが公序良俗または信義則に反するかどうかについては、①勤務配慮を行う必要性および相当性と、②これを行うことによるY社に対する負担の程度とを総合的に考慮して判断をする、という基準が示されました。

企業は、障害者を雇用する際、どこまでの勤務配慮ができるのか整理しておく必要があります。

 

(7)Aサプライ(知的障碍者死亡事故)事件(東京地裁八王子支部、平成15年12月10日労働判例870号50頁)

事案の概要

被告Y社の従業員であったA(知的障害者)が、事業所内に設置されていた大型自動洗濯機・乾燥機内での事故により頭蓋内損傷等の傷害を負って平成12年3月28日に死亡したのは、Yの代表取締役CおよびDがAに対する安全配慮義務に違反したことによるものであるとして、X(Kの父)損害賠償を請求した事案。

判決

リネンサプライ業の被告Y社は、亡Kとの雇用契約に基づき、知的障害を有するKに対し、労務を提供する過程において発生する危険からKの生命および身体を保護するように配慮すべき義務を負う。代表取締役CおよびDは、Yの代表取締役としての職責上、労働者たるKがおむつ角の専門クリニーング工場において安全に労務が提供することができるように、人的・物的労働環境を整備すべき安全配慮義務を負っている。自動洗濯ラインの仕組みやトラブルの対処方法、作業上および安全上の注意事項については、何ら具体的な説明・注意は行わなかった。

また、C所長やA副工場長らは、Kが、機械操作に慣れていたとはいえ、慣れていないことや予期せぬトラブルに臨機に応じて対処することが能力的に困難であると認識していたのであるから、Kがトラブル時に適切な指導、監督を受けられる態勢を整える必要があった。しかしながら、A副工場長あるいは機械に精通した者が本件作業現場に常駐しうるように、作業分担や人員配置を工夫することなく、A副工場長が不在の間は、漫然と、Kにダイアバー部洗い部門の現場を任せていた。

本件事故は、A副工場長がS工場の片付けのために外出している間に発生したのであって、Kが作業を行うについて、安全確保のための配慮を欠いていたことは明らかである。

裁判例のポイントと企業が把握するべき注意点

Y社は、従業員が安全に労務を提供できるように、人的・物的労働環境を整備すべき「安全配慮義務」を負っていたにもかかわらず、知的障害者である従業員Aに現場を任せ、Aさんは職場で事故により死亡してしまいました。

企業は、「慣れている単純作業はできるが、トラブル発生に対応できない」など、雇用する障害者の障害の特性をよく理解し、従業員が安全に労務を提供できるように安全を確保する必要があります。

 

障害者雇用に関するご相談は江口労働法務事務所にご相談ください

当事務所では企業様での障害者雇用につきまして、

採用サポートをはじめとして雇用管理のサポートをさせていただいております。

具体的なサポート内容につきましては、こちらをご確認ください。

関連するページ

顧問契約のご案内 顧問契約のご案内
人事・労務のご相談はこちら 人事・労務のご相談はこちら

アクセス